これからも妻といっしょに

がんで無くなった妻。その魂と引き続き共に歩みます

癌 告知から亡くなるまで 妻と過ごした137日 ㉔

10月4日


妻は10時半くらいまで寝ていた。


11時頃、ケアマネージャーと看護師が来訪。
おむつ替え、シーツの取り替えを行なった。
妻は目をつぶったままで、しゃべらないが、
反応はしている。


今日は、妻が参加しない(出来ない)会話を幾つかした。



足首から先を布団から出して寝ている妻を見て


看護師さん、「奥さん、いつも足先を出していますね」
そう言われて、私は気が付いた


これは、暑がりの私が、冬以外はやっていることで、
妻がやっているとは知らなかった。


妻は、知らず知らずのうちに、私の行為をマネする傾向がある。
これもその一つのように思える。


冷蔵庫に貼ってある、犬(近所にいた柴犬)
を抱いている妻の写真を見て、


看護師さんが私に
「奥さん、きれいですね」と言った。


私は、
「結婚式に出席した私の先輩や同僚ら、みんなからもそう言われました」

私は、意識的に大きな声で、
目をつぶっている妻に聞こえるように言った。
妻が、少しでも気分が良くなってほしいと考えたから・・・・。


看護師さんが部屋を見回して、
「奥さんピンクが好きなんですね。」
と言うので


私も見回して、
確かにピンク色の物が多いなと思った。
それまでは、
あまり意識していなかった。


妻が、
「水が飲みたい」と小さく声を発した。


すると看護師さんが、
ここは飲ませ方を知っている専門の自分がやるべきだと思ったのか
水を用意しようとしたが、


私は、
「私がやります。昨日もやりましたから」と言って
小さなコップに水を入れ、前日と同じように
妻を優しく抱きかかえながら、
少しずつ数回に分けて水を妻の口に注ぎ込んだ


「少しずつでいいよ。」
「後で飲みたくなったらいつでも飲ませてあげるから」


と妻に優しく語りかけながら飲ませていった。


その様子を見て、
看護師さんが「ご主人上手ですね」


私は、
「長年連れ添ってきたので、阿吽の呼吸なんでしょうね」
と答えた。


そのあと、
私は、
寝ている妻に顔を近づけて言った。
「次の世界で、もう一回結婚しようね」と。


私は、
死が近づいている妻に、
“二人の繋がりはこれで終わるわけではなく、今後も続くよ”
ということを、
どうしても伝えたかった。


間に合ってよかった


妻は、目をつぶったままで、
私の言葉に対し、
表情でも言葉でも答えることは出来ないが、
意識はあり、聞こえているはずで、
私の気持ちは伝わったと思っている。


それを見ていた看護師さんと、ケアマネージャーさん(二人とも30歳前後の女性)が、
「いいなあ」と口を揃えて言い、


看護師さんの方が、
「うちの主人なんか、そんなこと絶対に言ってくれない」と言った。


それに対して、
私は
「ご主人は心の中ではそう思っていても口に出さないだけですよ」
と答えた。


看護師さん、
「奥さんと仲いいですね」


私が、
「妻は、私みたいな地味なタイプが好きなんでしょう」
と言うと


看護師さん、
「そんなことないですよ」と“私の地味”を否定した。


二人が帰ったあと、
妻、「先生に、眠らせて下さいと言って下さい。」
私、「昨日、遺書も見せて伝えているから・・・」
とだけ答えた。



昼、私は区役所へ行き高額医療申請を行なった。
そして、家に戻り、洗濯をした。


16時頃、こっそり、妻の寝顔をビデオで撮影した。
生きている妻の寝顔を見ることが出来なくなることを考えると、
どうしても今、撮っておきたかった


この時、私は、「神様」を憎んだ。
なぜ、「がん」を与える相手を妻に選んだのか。
人の人生を弄び、楽しんでいる輩なのか。


普段、神様について考えないのに、
こういう時だけ、神様を引っ張り出してくる自分も
大した人間ではないなと思った。



16:30~16:40主治医の往診があった。
血圧 92/66 脈拍 93/分 経皮的動脈血酸素飽和度 (SPO2)99%


妻「死にたいです」「水が飲みたいです」「痛みは大丈夫です」


【主治医のアドバイス】
血圧に大きな変化は見られません。
背中と臀部に褥瘡(じょくそう)(←床ずれのこと)が
多発していますので、パットで保護しています。
痛み止めのテープは18時頃交換して下さい。



16時50分
妻が何とか聞き取れるくらいの声で
「パインジュースが飲みたい」
と頼んできた。


私はささやかではあるが、
“頼られる喜び”を感じながら、
妻を包み込むように抱きかかえて
妻の口にジュースを注いだ。


妻、「先生、死なせてくれるかなあ。」
私、「遺書も見せているし、先生も頭の中に入っていると思うよ。
   遺書に沿った対応をしてくれると思うよ。」


「生きたい」という言葉を
最後まで口にしない妻を見て、
切なさが込み上げてきた。



妻が亡くなるまで、あと 2日

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