倒れたとき
外で夕食をとった後、
私の住むマンションに到着すると、
エントランスの前に救急車が止まっていた。
そこに担架で70代後半に見える女性が運ばれていた。
それを心配そうに見ている夫と思われる男性が立っていた。
私は、その光景を横目で見ながら、マンションの中に入った。
いつか、私もこの様に救急車にお世話になる時が来るかもしれない。
という思いが頭の中を走った。
この老夫婦と私との違いは、私には伴侶がいないことだ。
そのため、私が倒れたとき、
自分で電話のある場所まで這って行き、
救急車を呼ばなければならない。
もしくは、
救急車を呼ぶことが出来ず、
倒れたままで眠りに着くかもかもしれない。
そうなった時、
悲惨な光景を思い浮かべがちだが、
私はそれほど、悲観はしていない。
私には、
子供はいないし、妻もいない。
そのため、誰の心配をすることもなく、逝くことが出来る。
妻が生きていたとしたら、
私は、
まだ死んではいけないという思いから、
ジタバタする姿を見せるかもしれない。
しかし、今、私は失うものが何もない。
運命に従おうとするのではないだろうか。