これからも妻といっしょに

がんで無くなった妻。その魂と引き続き共に歩みます

”かぐや姫“ は 月へ戻って行った

私が結婚したのは38歳の時。
世間的には、かなり遅い部類に入る。


それまで結婚の機会はなかったわけではない
会社の先輩が紹介してくれたこともあるし
テニスをやっていたこともあり、友達として
何人かと付き合ったこともある。
見合いも数回経験した。


特に28,29歳の時は、帰省する度に親が見合いをセットしていた。
当時、そして田舎では、息子が30を超えて独身でいるのは、
世間的にはずかしいことだという風潮があった。


相手はみんないい人で、断る理由を見つけにくい人ばかりだった。
私がいつも決断しないので、親はその度に、私に説教した。
「あんたのような人に、結婚してもいいと言ってくれる人がいるだけで
ありがたいことなのに」と。


30を過ぎると、親も疲れて来たのと、諦めの気持ちが手伝って、
見合いのセットがなくなってきた。
会社でも上司や先輩が心配してくれた。


37歳の時、ある人から妻を紹介された。


最初のデートは、デパートの入り口で待ち合わせをした。
会った瞬間、今までの出会いと何かが違うという特別な感覚を覚えた。


結婚後、妻の方も、会った瞬間のことを
「のらだ!(犬の好きな妻の表現)と思った」と言っていた。


お茶を飲み、公園に行ったり、街をぶらぶらした。
夕方になり、夕食を共にしようかと思って、
日比谷公園から道を隔てた地下鉄の入り口を通過していた時、
妻の足音が聞こえないことに気が付いた。


振り返ると、地下鉄の入り口に立ち止まっている妻の姿があった。


妻のところに後戻りして近づくと、妻はニコリともせずに、
私に向かって「それではこれで失礼します」とだけ言って、
ぺこりとお辞儀をして、地下鉄の入り口を降りていった。


「ああ、これは断られたな」と思った。


後日、最後のけじめのつもりでデートに誘う電話を入れた。
すると意外にも会うことを承諾してくれた。


この様にちょっと普通と違う変わった出会いだった。
その後、1年程、デートを重ね、結婚に至った。


両親からしたら、以前見合いをした人の方が息子の嫁としては
よかったかもしれない。
なぜなら、妻は子供はいらない。家事はしない。
という人だったから。


私が20代の時に妻を両親に紹介していたら、猛反対にあっただろう。
それを考えると、結婚が遅くてよかったと思う。
両親も諦めの境地でOKすることになったので。


世間的にも、それまで出会った人の方が妻より得点は明らかに高いのは間違いない。
しかし、妻は得点の対象にならない項目、心の部分に、素晴らしいものを持っていた。
私にとって、唯一無二の人で、やっと出会えた人だった。


しかし、
妻は “かぐや姫” のように、
私の前に現れ、
そして予期せぬ時に、月に帰って行った。

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